「顧問」と「相談役」は何が違うのか?

企業に「顧問」や「相談役」という役職を置く会社は珍しくありません。ただ、2つの違いは法律で決まっているわけではないため、会社ごとに使い方が異なります。

実は、顧問と相談役に法律上の明確な定義は存在しません。会社法をはじめとする日本の法律は、社長・取締役・監査役などの役員については詳細な規定を置いていますが、「顧問」や「相談役」については何も定めていないのです。

それでも実務上は異なるニュアンスで使い分けられています。本記事では、2つの称号の違い、法的位置づけ、組織図での扱い、報酬の決まり方と公表データ、そして「どちらを設置すべきか」の判断基準まで体系的に解説します。

顧問と相談役それぞれの定義

顧問(こもん)とは

顧問とは、企業と顧問契約を結んだ外部の専門家が、特定分野(経営・法律・技術・財務など)のアドバイスを提供する関係を指します。

顧問の特徴:

  • 外部の専門家であることが多い(弁護士顧問、税理士顧問、経営顧問など)
  • 特定の専門知識・経験を持つ人物を外部から招聘する
  • 報酬は「顧問料」として支払われる(月額固定の契約が多い)
  • 会社との利害関係が薄く、客観的なアドバイスが期待できる
  • 複数企業と同時に契約することもできる

相談役(そうだんやく)とは

相談役とは、主に元社長・元会長などが退任後に就任する肩書で、会社の重要事項について経営陣が相談できる立場を指します。

相談役の特徴:

  • 元社長・元会長・元取締役など、社内の重職を経験した人物が就任するケースが多い
  • 当該企業との強い関係を持ち、内部事情に精通している
  • 「院政」問題(実質的に経営権を維持し続ける)が指摘されることがある
  • 常勤・非常勤どちらのケースもある
  • 報酬体系は企業ごとに異なる

2つの違いをひと言で言うと

「顧問」は外部の専門家を招く際に使われることが多く、「相談役」は内部の重役OBを処遇する際に使われることが多い、という傾向があります。ただし法律上の区別はなく、企業が任意で称号を決定できます。

顧問にも経営・法務・技術・営業など様々なタイプがあります。詳しくは顧問の種類一覧(全10タイプ比較)をご覧ください。

顧問と相談役の違い【比較表】

項目 顧問 相談役
法的定義 なし(任意称号) なし(任意称号)
主な就任者 外部の専門家(弁護士・税理士・経営コンサルなど) 元社長・元会長・元取締役など社内重役OB
関係の性質 外部性が強い・客観的立場 内部性が強い・会社との歴史的つながり
契約形態 業務委託契約・顧問契約 雇用契約または委任契約(ケースによる)
報酬名称 顧問料 相談役報酬・嘱託給与など
複数企業との契約 複数社と契約することもある 出身の1社に限られることが多い
経営への影響 限定的・助言のみ 場合によっては実質的影響力あり(院政問題)
上場企業の開示 元社長等が就く場合はCG報告書に記載欄あり(任意・2018年1月〜) 元社長等が就く場合はCG報告書に記載欄あり(任意・2018年1月〜)
会社法上の役員 原則として役員ではない 原則として役員ではない

法的位置づけ:顧問・相談役は「役員」ではない

会社法上の役員とは

会社法第329条第1項は、取締役・会計参与・監査役を「役員」とし、株主総会の決議で選任すると定めています(代表取締役は取締役の中から、指名委員会等設置会社の執行役は取締役会が選びます)。役員は会社と委任の関係にあり(会社法第330条)、善管注意義務を負い、取締役には忠実義務もあります(会社法第355条)。任務を怠れば会社への損害賠償責任を負います(会社法第423条)。

一方、「顧問」や「相談役」は会社法に規定がなく、株主総会での選任も不要であり、法的な役員ではありません。

顧問・相談役の法的根拠は「契約」

顧問・相談役の権利・義務・報酬はすべて当事者間の契約によって決まります。具体的には:

  • 業務委託契約型:個人事業主として業務を受託する。個人への報酬は源泉徴収が必要(報酬の10.21%、1回100万円超の部分は20.42%)
  • 雇用契約型:嘱託社員として雇用する。社会保険の扱いは稼働時間次第
  • 委任契約型:特定業務の委任を受ける形式

「みなし役員」に注意

税法上の「みなし役員」規定(法人税法第2条第15号、法人税法施行令第7条)には注意が必要です。相談役や顧問が実質的に法人の経営に従事していると判断された場合、税務上は役員として扱われることがあります。

みなし役員に認定されると:

  • 報酬が「役員給与」として扱われ、損金算入の制限がかかる(法人税法第34条)
  • 過大な報酬は損金不算入となる
  • 事前確定届出給与の手続きが必要になる場合がある

特に元社長・元会長が相談役に就任する場合は、税務上のみなし役員リスクを弁護士・税理士と事前に確認することをお勧めします。

組織図における配置の違い

相談役の組織図での位置

相談役は慣習的に、取締役会や社長よりも「上位」または「別格」の位置に記載されることがあります。これは、会社の歴史を積み重ねた重役OBとしての敬意を示すためです。

代表的な組織図上の配置パターン:

  • パターンA(最上位型):相談役を組織図の最上段に置き、取締役会・社長の上に位置づける
  • パターンB(並列型):社長・取締役会と同じ階層に「相談役」を横並びに配置する
  • パターンC(独立型):取締役会とは別の「諮問機関」として独立して記載する

顧問の組織図での位置

顧問(特に外部専門家)は、社長や取締役会に対して「外部助言機関」として配置されるのが一般的です。組織の指揮命令系統には組み込まれず、点線(破線)で関係を示すことが多いです。

顧問の組織図表記の例:

  • 弁護士顧問:「顧問弁護士(○○法律事務所)」として別枠表示
  • 経営顧問:社長の横または下に「経営顧問」として破線で接続
  • 技術顧問:研究開発部門の横に「技術顧問」として表示

詳しい組織図パターンについては、組織図における顧問の位置の記事もご参照ください。

相談役問題と組織図の透明性

2018年1月から、上場企業は代表取締役社長等を退任した人が相談役・顧問などに就いている状況を、コーポレート・ガバナンス報告書の記載欄に任意で書けるようになりました(名古屋証券取引所「相談役・顧問等の開示に関するご質問と回答」2017年8月2日)。

記載欄の項目は、氏名・役職・業務内容・勤務形態や条件(常勤・非常勤、報酬の有無など)・社長等退任日・任期など。退任した経営トップの関与を外から見えるようにする狙いがあります。

役割・業務内容の違い

顧問の主な役割

  • 専門知識の提供:法律・技術・財務・マーケティングなど特定分野のアドバイス
  • 戦略立案支援:経営戦略の策定・検証・改善提案
  • 人脈・ネットワーク提供:投資家・取引先・人材の紹介
  • 外部評価・客観的分析:第三者の目線での課題発見
  • プロジェクト支援:M&A・IPO・新規事業立ち上げなど

相談役の主な役割

  • 経営陣への助言:重要な意思決定に対して経験に基づく意見を述べる
  • 社内の橋渡し役:長年の在籍で培った信頼関係を活かした調整
  • 対外的な信頼向上:重鎮の名前を会社名義に掲げることで信用力を高める
  • 創業理念の継承:設立者・元社長として会社の文化・価値観を維持する
  • 後継者育成支援:次世代経営者へのメンタリング

報酬・処遇の違い

顧問料の決まり方

外部専門家を招く「顧問」の報酬は、業務委託契約として当事者間で決まり、全国一律の公式な料金表はありません。金額は稼働頻度・関与範囲で個別に決まります。

顧問の種類 月額 見積もりで確認すること
弁護士顧問 個別見積(下の公表データを参照) 顧問料の範囲に含まれる相談時間・契約書確認の件数
税理士顧問 個別見積 記帳代行・決算申告料が含まれるか、年間の総額
経営顧問 個別見積 面談の頻度、会議への出席や資料作成まで含むか
技術顧問 個別見積 稼働時間、コードレビューや採用面接の同席まで含むか

参考として、日本弁護士連合会のアンケート(2009年度)では、中小企業との顧問契約で「月3時間程度の相談」を顧問料の範囲とする場合の月額顧問料は、5万円が52.7%、3万円が33.5%でした(回答182件。日弁連「中小企業のための弁護士報酬の目安(2009年度アンケート結果版)」2010年3月)。当時の値で、今の金額は事務所ごとに異なります。

顧問料の詳しい相場・業種別比較については顧問料金・報酬の相場の記事をご覧ください。

相談役報酬の公表データ

相談役の報酬は、元役員への処遇として設定されることが多く、企業規模や元の役職によって異なります。公表された調査として、産労総合研究所「役員報酬の実態に関するアンケート調査」(2010年9〜11月調査・回答151社)では、役員退任後の顧問・相談役の平均年間報酬は常勤675万円、非常勤498万円でした(プレスリリースの保存版)。15年以上前の調査のため、今の水準とは異なる可能性があります。

上場企業では、元社長等が相談役・顧問に就いている場合、コーポレート・ガバナンス報告書の記載欄で勤務形態や報酬の有無を書く会社もあります(記載は任意)。

「顧問」と「相談役」どちらを設置すべきか?

「顧問」が適しているケース

  • 外部の専門知識(法律・IT・マーケティングなど)を取り込みたい
  • 経営陣に不足しているスキルを補完したい
  • 客観的・中立的な立場からのアドバイスが欲しい
  • スタートアップ・中小企業で経営経験を補いたい
  • プロジェクト単位のサポートが欲しい

「相談役」が適しているケース

  • 元社長・元会長の経験・知見を引き続き活かしたい
  • 後継者への経営移行をスムーズに進めたい
  • 創業者の理念・文化を組織に残したい
  • 対外的な信頼性・格式を高めたい(老舗企業・伝統産業など)
  • 長年の取引先・金融機関との関係を維持したい

注意:上場を目指すなら「相談役制度」の見直しを

IPOを目指す企業の場合、相談役が実質的に経営権を維持しているとコーポレートガバナンス上の問題として審査で指摘される可能性があります。上場審査では「ガバナンスの実効性」が重視されるため、相談役制度の位置づけを明確にしておくことが重要です。

外部専門家としての「顧問」は、役割と報酬を契約で明確にしておけば、上場準備中の会社でも位置づけを説明しやすい形です。顧問制度の記事もあわせてご覧ください。

相談役・顧問制度廃止の動向

相談役・顧問制度を廃止・見直した公表例

退任した経営トップの影響力が問題視されるなか、相談役・顧問制度を廃止または見直したことを公表した企業があります。

廃止の理由として挙げられること

  • コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、旧経営陣の影響力の不透明さをなくしたい
  • 機関投資家など株主からの批判への対応
  • 次世代経営者への権限移譲をスムーズにしたい

外部「顧問」という選択肢

一方で、社内の相談役ではなく外部専門家としての「顧問」なら、必要な分野の知見だけを契約で取り入れられます。技術顧問・経営顧問・マーケティング顧問など、課題に合わせて選べるのが利点です。

顧問になるには?の記事では、顧問として活躍するための実践ガイドを詳しく解説しています。

まとめ

顧問と相談役の違いを整理します:

  • 法的な違いはない:どちらも会社法上の役員ではなく、任意称号
  • 慣習的な違いがある:顧問は外部専門家・相談役は社内重役OBに使われることが多い
  • 組織図での位置が異なる:相談役は上位や独立した位置、顧問は破線で繋がる外部機関として表示
  • 報酬体系が異なる:顧問は業務委託料、相談役は役員処遇に近い形が多い
  • 相談役制度を廃止・見直す企業がある:東芝・資生堂・三菱重工業などが公表

自社の目的・状況に応じて適切な制度を選択し、役割・報酬・責任を契約書で明確に定めることが最も重要です。

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本記事の監修

齊木祐介(ASI株式会社 代表取締役)— 顧問制度・経営支援を含む複数事業を統括し、実務で得た知見をもとに本サイトの情報を監修しています(運営:ASI株式会社)。