顧問の基本的な責任範囲
顧問は業務委託契約に基づく独立した立場であり、従業員とは異なる責任範囲を持ちます。ここでは基本的な責任の枠組みを解説します。
顧問と従業員の責任の違い
| 項目 | 一般顧問(業務委託) | 従業員(雇用契約) | 社外取締役 |
|---|---|---|---|
| 法的位置づけ | 独立した業務委託先 | 会社の従属的立場 | 会社法上の役員 |
| 指揮命令権 | なし | あり | なし(監督・決議権あり) |
| 善管注意義務 | 法律上当然に負う(民法644条・656条) | 労働契約に伴う義務(誠実に働く義務など)を負う | 負う(会社法330条で委任の規定に従う)。あわせて忠実義務(会社法355条) |
| 秘密保持義務 | 契約書で定める(必須) | 就業規則・誓約書などで定める | 善管注意義務・忠実義務から導かれる |
| 競業避止義務 | 契約書で定める場合あり | 就業規則などで定める | 会社法で制限あり(競業取引は株主総会等の承認が必要=会社法356条) |
| 損害賠償責任 | 善管注意義務違反(過失)で負いうる。上限・範囲は契約で制限できる | 労働契約上の義務違反で負いうる | 任務を怠れば会社に対して負う(会社法423条)。第三者には悪意・重過失で負う(429条)。責任限定契約が可能(427条) |
| 刑事責任 | 個人として負う可能性 | 個人として負う可能性 | 個人として負うほか、役員を対象とする罪(特別背任=会社法960条など)もある |
重要ポイント
一般的な顧問は助言・指導が主な役割であり、経営の意思決定権や業務執行権は持ちません。そのため、会社法上の役員の責任は負いません。ただし、善管注意義務は法律上当然に負うため、責任の上限や範囲は契約書で決めておくことが必須です。
民事責任【損害賠償のリスク】
顧問が企業や第三者に損害を与えた場合、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
民事責任が発生する主なケース(想定例)
ケース① 善管注意義務違反
善良な管理者としての注意義務を怠った場合、損害賠償責任が発生します。
ケース② 秘密保持義務違反
企業の秘密情報を第三者に漏洩した場合、重大な損害賠償責任が発生します。
ケース③ 競業避止義務違反
契約で競業避止義務が定められているのに、競合他社の顧問を兼任した場合。
ケース④ 誤った助言による損害
専門家として明らかに誤った助言をし、企業が重大な損害を被った場合。
民事責任を軽減する方法
- 契約書で責任制限条項を設ける:「報酬額の○ヶ月分を上限とする」など
- 賠償責任保険に加入する:個人で専門家賠償責任保険に加入
- 助言の前提条件を明記する:「提供情報が正確であることを前提とする」など
- 書面で記録を残す:助言内容をメールや議事録で残し、誤解を防ぐ
刑事責任【罰金・拘禁刑のリスク】
顧問の行為が刑法や特別法に違反した場合、刑事責任を問われる可能性があります。2025年6月1日の改正刑法の施行で、それまでの「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」にまとめられました。以下の刑罰はe-Gov法令検索で2026年10月24日に確認した条文です。
刑事責任が発生する主なケース
| 違反行為 | 該当法令 | 刑罰 | 想定される場面 |
|---|---|---|---|
| 営業秘密の侵害(不正な取得・使用・開示) | 不正競争防止法21条 | 10年以下の拘禁刑若しくは2,000万円以下の罰金、又はその両方 | 技術顧問が不正の利益を得る目的で、企業の製造ノウハウを競合に渡す |
| インサイダー取引 | 金融商品取引法166条・197条の2第13号 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその両方 | 顧問先の上場会社の未公表の重要事実を知って株式を売買する(会社と契約している者は「会社関係者」に当たりうる=166条1項4号) |
| 横領・背任 | 刑法252条・253条・247条 | 横領5年以下の拘禁刑、業務上横領10年以下の拘禁刑、背任5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 財務顧問が預かった企業資金を私的に流用する |
| 不正な請託を受けた利益の収受 | 会社法967条(取締役等の贈収賄罪) | 5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金 | 対象は取締役・監査役・支配人などで、役員でない顧問は対象外。ただし社外取締役を兼ねる場合は対象。なお刑法の収賄罪(197条)は公務員が対象 |
| 有価証券報告書の虚偽記載(粉飾決算) | 金融商品取引法197条 | 10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、又はその両方 | 会計顧問が上場会社の粉飾決算に加担する(共犯として処罰されうる) |
社外取締役を兼ねる場合のリスク
顧問が社外取締役にも就く場合は、会社法上の役員として、任務を怠れば会社への損害賠償責任(会社法423条)を負い、特別背任罪(会社法960条:10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、又はその両方)など役員を対象とする罰則の対象にもなります。会社がD&O保険(役員等賠償責任保険)に加入しているか、補償範囲はどうかを就任前に確認しましょう。
契約書での責任制限【5つの重要条項】
顧問契約書に適切な条項を盛り込むことで、過度な責任を回避できます。
条項① 責任制限条項
損害賠償責任の上限額を定めます。
条項例
「本契約に関連して顧問が負う損害賠償責任の上限は、本契約に基づき直近○か月間に支払われた報酬の総額とする。ただし、故意または重大な過失による場合はこの限りではない。」
条項② 免責条項
顧問が責任を負わない範囲を明確にします。
条項例
「顧問は、企業が提供した情報が不正確であったこと、または企業が顧問の助言に従わなかったことに起因する損害について、一切の責任を負わない。」
なお、故意や重大な過失による損害まで免責する定めは、公序良俗(民法90条)などの観点から効力が認められないおそれがあります。
条項③ 助言の性質の明記
顧問の助言はあくまで参考意見であることを明記します。
条項例
「顧問の助言は、企業の意思決定を支援するための参考意見であり、企業は自らの判断と責任において最終決定を行うものとする。顧問は意思決定の結果に対して責任を負わない。」
条項④ 秘密保持義務の明確化
秘密情報の範囲と保持期間を明確にします。
条項例
「顧問は、本契約期間中および契約終了後○年間、企業から開示された秘密情報を第三者に開示せず、本契約の目的以外に使用しないものとする。ただし、公知の情報、法令に基づき開示が義務付けられた情報は除く。」
条項⑤ 紛争解決条項
トラブル時の解決方法を定めます。
条項例
「本契約に関する紛争は、まず当事者間の誠実な協議により解決を図るものとする。協議により解決しない場合は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
契約書作成のコツ
顧問にとって不利な条件(無制限の損害賠償責任など)が含まれていないか、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。特に、高額な報酬を受け取る場合は、責任範囲も広くなりがちなので注意が必要です。
D&O保険と賠償責任保険【リスクヘッジ】
顧問のリスクをカバーする保険について解説します。
D&O保険(会社役員賠償責任保険)
対象者
取締役・監査役・執行役など会社法上の役員等が中心。保険契約によっては執行役員や管理職を被保険者に含めるものもある。会社法では「役員等賠償責任保険契約」として、内容の決定に株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議が必要(会社法430条の3)
補償内容(契約により異なる)
- 株主代表訴訟などで役員が負う損害賠償金・争訟費用
- 第三者からの損害賠償請求
- 当局の調査に対応する費用(特約などで補償する契約がある)
保険料
保険会社の見積もりによる(企業規模・業種・補償額などで個別に決まる)
顧問の扱い
顧問が被保険者に含まれるかは保険契約の定め次第。含まれていないことも多いため、保険証券で被保険者の範囲を確認する。
専門家賠償責任保険
対象者
弁護士、税理士、公認会計士、コンサルタント、技術士など専門家
補償内容
- 専門業務の過誤による損害賠償金
- 訴訟費用・弁護士費用
- 示談交渉費用
保険料
保険会社の見積もりによる(職種・業務内容・補償額などで個別に決まる)
顧問の扱い
職種によっては加入可能。コンサルタント業務向けの賠償責任保険を扱う保険会社もある。
顧問が加入すべき保険
| 顧問タイプ | 推奨保険 | 理由 |
|---|---|---|
| 社外取締役 | D&O保険(会社が契約) | 役員として株主代表訴訟などの対象になりうる |
| 経営顧問 | コンサルタント賠償責任保険 | 助言の誤りによる損害賠償リスク |
| 技術顧問 | 専門家賠償責任保険 | 技術的な過誤による損害リスク |
| 法律・財務顧問 | 職業賠償責任保険 | 資格に応じた専門職向けの賠償責任保険を確認 |