顧問契約書の必須条項8つ

有効な顧問契約書を作成するには、以下の8つの条項を必ず盛り込む必要があります。いずれかが欠けていると、将来的なトラブルの原因となります。各条項の記載例と実務上の注意点を詳しく解説します(記載例の金額・期間は「○」で示しています。実際の数字は当事者の合意で決めてください)。

個人の顧問に頼むときの法律上の義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法・2024年11月1日施行):従業員を使わずに一人で活動する個人(または代表者1人だけの法人)の顧問に業務を委託する会社は、次のルールを守る必要があります。
  • 委託したら直ちに、業務の内容・報酬の額・支払期日などを書面またはメール等で明示する(3条)
  • 従業員を使う会社(特定業務委託事業者)は、報酬の支払期日を、役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間で定める(4条)
  • 1か月以上の委託では、顧問に責任がないのに報酬を減らすことなどが禁止される(5条)
  • 6か月以上の継続的な委託を解除・不更新とするときは、少なくとも30日前までに予告する(16条)
出典:e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(いずれも2026年10月24日確認)。

条項1:業務範囲の明確化

最も重要な条項です。顧問が行う業務の具体的な内容、方法、頻度を詳細に定めます。曖昧な記述は「業務範囲の食い違い」というよくあるトラブルの原因になります。顧問側・企業側の双方が同じイメージを持っているかどうかを契約前に必ず確認し、文字に落とし込むことが不可欠です。

記載例:「甲(企業)の依頼に基づき、月○回(各○時間)の経営戦略に関する助言、資料提供(月○件以内)、経営幹部向けの教育セッション(四半期○回)を行う。具体的な業務内容は別途定める業務指示書による。なお、本件業務には甲の事業に直接従事する実務作業は含まれない。」
  • 業務の種類(経営助言・技術指導・営業支援など)を具体的に列挙する
  • 業務の頻度・時間・場所(訪問・リモート・電話など)を数値で定める
  • 業務範囲に含まれないことも明示する(例:「訴訟代理は含まない」「実装作業は含まない」)
  • 業務の追加・変更は書面による合意を条件とする旨を明記する
  • 緊急対応・追加相談の扱い(別途請求か、報酬内に含むか)を定める

条項2:報酬条件(固定報酬・成果報酬)

報酬の金額・支払い方法・タイミングを明確に定めます。固定報酬と成果報酬を組み合わせる場合は、成果の定義と測定方法を具体的に記載することが不可欠です。また、消費税・源泉徴収の扱いも契約書に明記しないと後のトラブルになります。

記載例:「甲は乙(顧問)に対し、月額基本報酬として金○○万円(税別)を毎月末日締め翌月○日までに乙指定の口座に振り込む。別途、成果報酬として甲の売上が前年同月比○%を超えた月は超過分の○%を翌月に支払う。交通費・宿泊費は実費精算とし、事前に乙から申請書を提出のうえ甲が承認したものに限る。」
  • 消費税の内外税を明記する(「税別」「税込」のいずれか)
  • 交通費・宿泊費・通信費などの経費の扱いを定める
  • 報酬の改定条件(インフレ率連動・業績連動・定期見直しなど)を定める
  • 源泉徴収の扱いを明記する(個人の弁護士・税理士・経営コンサルタント等への報酬は、金額にかかわらず源泉徴収の対象=所得税法204条1項2号・同法施行令320条2項)
  • 支払期日(個人の顧問への委託はフリーランス法4条で原則60日以内)と、支払い遅延時の遅延損害金率を定める

条項3:契約期間と更新条件

契約の開始日・終了日と、自動更新の有無を定めます。顧問契約は長期継続を前提とすることが多いですが、初期段階でお互いの相性を確認するために試用期間を設けることも有効です。

記載例:「本契約の有効期間は202X年XX月XX日から1年間とする。期間満了の○か月前までに書面による終了の意思表示がない場合、同条件で1年間自動更新するものとし、以後も同様とする。ただし、初回○か月を試用期間とし、この間は○日前の書面通知をもって解除できるものとする。」(個人の顧問への6か月以上の継続的な委託では、会社からの解除・不更新に少なくとも30日前の予告が必要=フリーランス法16条)
  • 試用期間を設ける場合はその条件を詳細に定める
  • 自動更新の場合、更新拒絶の通知期間を明記する(個人の顧問への6か月以上の委託では30日前以上にする)
  • 更新時の報酬改定条件も合わせて定める(物価連動など)
  • 更新拒絶の通知方法(書面・メール・内容証明郵便など)を指定する

条項4:秘密保持義務(NDA)

顧問が業務を通じて知り得た企業の機密情報を第三者に漏洩しないことを義務付けます。不正競争防止法の「営業秘密」保護とも連動する重要な条項です。特に未公開の事業計画・顧客情報・財務情報を顧問と共有する場合は、この条項の精度が企業存続に直結します。

記載例:「乙は、本契約期間中および終了後○年間、甲から開示された秘密情報(顧客情報、財務情報、技術情報、事業計画等、甲が秘密である旨を明示した情報)を第三者に開示せず、本契約の目的以外に使用しない。ただし、公知の情報、乙が独自に開発した情報、法令により開示が義務付けられた情報はこの限りでない。」
  • 「秘密情報」の定義を具体的に列挙する
  • 例外事項(公知情報・法的開示義務・独自開発情報など)を定める
  • 秘密保持義務は契約終了後も一定期間継続させる(期間は情報の重要度に応じて決める)
  • 違反時のペナルティ(損害賠償・違約金)を明記する
  • 情報の取り扱い方法(保管場所・廃棄方法)を定める場合は別紙で規定する

条項5:競業禁止条項

顧問が契約期間中・終了後に競合他社の顧問を兼任することを禁止する条項です。ただし、過度に広い競業禁止は公序良俗違反(民法90条)として無効になるため、合理的な範囲に限定することが重要です。顧問にとっても不当に広い競業禁止は収入の損失につながるため、交渉の重要ポイントとなります。

法的注意点:競業避止の有効性について、経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5「競業避止義務契約の有効性について」は、従業員の退職後の競業避止義務に関する判例を整理し、①守るべき企業の利益、②従業員の地位、③地域的な限定、④存続期間、⑤禁止される競業行為の範囲、⑥代償措置を判断のポイントに挙げています。期間は「1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多い」「近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えている判例が見られる」とされています。顧問(業務委託)は従業員と立場が違いますが、範囲を絞り具体的に定める考え方は参考になります。
記載例:「乙は、本契約期間中および終了後1年間、甲の事業と直接競合する国内企業の顧問・取締役・従業員の地位に就かない。ただし、甲が書面で事前に承認した場合はこの限りでない。本条に対する代償として、乙の月額基本報酬には競業禁止補償金として月額金○万円が含まれる。」
  • 「競合他社」を具体的に列挙するか、業種・業務カテゴリを明確に定義する
  • 兼業を認める場合は「事前書面承認制」として企業がコントロールできるようにする
  • 競業禁止の期間・地域・業種範囲を合理的かつ具体的に定める
  • 競業禁止への代償措置(報酬上乗せ)を設けることで条項の有効性を高める

条項6:知的財産の帰属

顧問が業務中に作成したレポート・設計書・プログラム・発明・ノウハウ集などの知的財産権の帰属を明確に定めます。定めがない場合、著作権は創作者(顧問)に帰属するため(著作権法17条)、企業が利用できなくなるリスクがあります。実務では、業務成果物のすべての権利を企業に移転する条項を設けることが多いです。

記載例:「乙が本契約に基づく業務の遂行に関連して生じた著作物・発明・考案・意匠その他一切の知的財産に係る権利は、すべて甲に帰属する。乙は甲に対し、これらの権利の移転に必要な一切の行為を行う。なお、乙が本契約以前から保有していた知的財産は除く。甲は乙に対し、知的財産移転の対価として本報酬に含まれるものとする。」
  • 著作者人格権の不行使を定めることも有効(二次的著作物の作成・改変を可能にする)
  • 顧問が以前から保有していた既存知的財産は除外することを明記する
  • 知的財産移転の対価を報酬に含むか、別途支払うかを明示する
  • 特許出願が必要な発明が生じた場合の費用負担・手続きについても定める

条項7:損害賠償の範囲

顧問の義務違反(業務上の過失・秘密漏洩・競業禁止違反など)によって企業に損害が生じた場合の賠償責任の範囲・上限を定めます。顧問側は責任制限条項を求めることが一般的ですが、企業側は最低限の責任を確保したいところです。双方のバランスを取った条項設計が重要です。

記載例:「乙の故意または重大な過失による本契約違反により甲に損害が生じた場合、乙は甲に対し損害賠償責任を負う。ただし、乙が負う損害賠償責任の上限は、直近○か月に甲が乙に支払った報酬総額とする。間接損害・逸失利益については乙は責任を負わない。なお、秘密保持義務違反および競業禁止義務違反については、この限りとせず全損害を賠償する。」
  • 責任制限の上限額(報酬の数ヶ月分など)を定める
  • 故意・重大過失の場合は上限適用外とすることが多い
  • 間接損害・逸失利益の扱いを明記する
  • 秘密漏洩・競業禁止違反など特定の重大違反は別途規定する
  • 賠償責任保険への加入義務を定める場合は保険金額も明記する

条項8:解約条件

中途解約の条件・手続き・解約時の精算方法を定めます。民法651条により委任(準委任)契約はいつでも解除できますが、実務では事前通知期間と損害賠償の扱いを定めることが重要です。契約開始後すぐに関係が悪化するケースもあるため、解約条件の明確化は双方の利益を守ります。

記載例:「甲または乙は、○か月前までに書面による通知をもって本契約を解除できる。ただし、相手方が本契約に違反し、催告後○日以内に是正されない場合は即時解除できる。解除時、乙は解除日までの業務遂行に対応する報酬を日割り計算で請求できる。前払い済みの報酬が残存する場合は甲に返還する。解除後も第X条(秘密保持)・第Y条(競業禁止)の義務は継続する。」
  • 通常解除の事前通知期間(個人の顧問への6か月以上の継続的な委託では、会社側からは少なくとも30日前=フリーランス法16条)
  • 即時解除が可能な重大違反の具体例を列挙する(反社会的勢力の関与・刑事事件への関与など)
  • 解約時の未払い報酬・前払い報酬の精算方法を定める
  • 解約後も継続する義務(秘密保持・競業禁止・知的財産移転手続き)を明記する
  • 解約通知の方法(書面・内容証明郵便・電子メールなど)と送付先を指定する

雇用契約との違い(偽装請負リスク)

顧問契約と雇用契約の境界線は、実務上しばしば問題になります。形式上は顧問契約でも、実態として会社の指揮命令の下で働いている(労働者性がある)と判断されると、労働基準法などが適用されます。このような状態は一般に「偽装請負」「偽装フリーランス」と呼ばれます(本来の「偽装請負」は、請負の形で実態が労働者派遣になっているものを指す言葉です)。労働者かどうかは契約の名前ではなく実態で判断され、その考え方は旧労働省の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)で示されています。

雇用契約と顧問契約(準委任)の比較

判断要素 雇用契約(労働者) 顧問契約(業務委託)
指揮命令関係 企業の指揮・監督下にある 独立して業務を遂行する
業務遂行の自由 業務の内容・方法を企業が決定 業務の方法・手段を自由に選択できる
時間的拘束 始業・終業時間が決まっている 業務時間を自分で決められる
場所的拘束 就業場所が定められている 業務場所を自由に選択できる
他社との兼業 原則禁止または制限 原則自由(競業禁止条項がある場合を除く)
報酬の性質 時間・日・月単位の固定給 成果・役務に対する対価
社会保険 健康保険・厚生年金の加入義務あり 企業の社会保険加入義務なし
労働法の適用 労働基準法・労働契約法が適用 民法(委任・準委任)が適用
有給休暇 法定の有給休暇権あり 有給休暇制度なし(契約で定めることは可能)

偽装請負と認定される典型的なリスク要因

以下の要素が複数当てはまる場合、労働基準監督署に「事実上の雇用契約」と認定されるリスクが高まります。単一の要素だけでなく、総合的に判断されることに注意してください。
  • 決まった曜日・時間の出勤が義務付けられている
  • 業務の細かい手順・方法について日々の指示がある
  • タイムカード・勤怠管理システムで出退勤を管理されている
  • 顧問が企業のメールアドレスや名刺を使用している
  • 他の企業との顧問契約が実質的に禁止されている(専属状態)
  • 報酬が時間給・日当で算定されている
  • 企業の設備・機材のみを使用して業務を行っている
  • 顧問が組織図に組み込まれ、部下を持っている

偽装請負と認定された場合のペナルティ

労働者と判断された場合、企業は次のような負担やリスクを負う可能性があります(条文はe-Gov法令検索で2026年10月24日に確認)。

  • 未払い賃金(割増賃金など)の請求:労働基準法の賃金請求権の時効は5年と定められていますが、当分の間は3年です(労働基準法115条・附則143条3項。退職手当は5年)。さかのぼって請求される額は、実際の労働時間と報酬額によって決まります
  • 社会保険料の追徴:加入すべきだった健康保険・厚生年金の保険料を、時効(2年=健康保険法193条・厚生年金保険法92条)の範囲でさかのぼって納める必要が生じます。会社負担分の目安として、厚生年金の保険料率は18.3%で労使折半です(厚生年金保険法81条4項)
  • 行政指導・罰則:労働基準監督署から是正勧告を受けることがあります。たとえば割増賃金の不払い(37条違反)や労働時間の規制違反(32条違反)には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の定めがあります(労働基準法119条。2025年6月1日の刑法改正施行で「懲役」は「拘禁刑」になりました)
  • 民事訴訟:当該顧問から雇用関係の確認・未払い賃金の支払いを求める訴訟を提起される
  • 信用失墜:報道された場合のレピュテーションリスク。採用・取引への悪影響
適法な顧問契約のために:顧問の業務遂行方法に関与しすぎず、成果(アウトプット)で評価する関係を維持することが重要です。また、顧問が複数企業と並行して契約できる環境を整えることで、「労働者性」の認定リスクを下げることができます。

よくあるトラブルの型3つ

顧問契約をめぐる紛争の多くは、契約書の不備または曖昧さから生じます。以下は特定の事件ではなく、契約書の不備から起こりやすいトラブルを想定例として整理したものです。事前の一手間(弁護士への相談・契約書の精緻化)が、後々のコストと時間の損失を防ぎます。

トラブルの型1:業務範囲の曖昧さによる紛争

想定例:IT企業がシニアエンジニアと「技術顧問」として契約。企業側は「週に何日かの出勤と開発業務への参加」を期待していたが、顧問側は「月数回のミーティングと技術的な質問への回答」のみを想定していた。契約書の業務内容欄には「技術支援全般」としか記載がなく、開始後すぐに業務範囲をめぐる対立が起きる。企業が期待した働き方は、指揮命令や時間の拘束があれば雇用と判断されるおそれもある。

防止策:

  • 業務内容を「月○回・各○時間のミーティング」「質問への回答(月○件以内、回答期限○営業日)」「コードレビュー(月○件以内)」などと具体的に数値化する
  • 業務に含まれないことも明示する(「本件業務には開発作業の直接従事は含まない」)
  • 業務の追加・変更は書面による合意を条件とする旨を明記する
  • 契約締結前に「業務開始ミーティング」を設け、双方の期待値をすり合わせる

トラブルの型2:競業禁止条項の解釈をめぐる紛争

想定例:食品メーカーがマーケティング顧問と顧問契約を締結。契約書の競業禁止条項は「競合他社」を「食品業界の他社」とだけ定めていた。顧問は契約期間中に、同じ食品業界だが異なるカテゴリ(乳製品と菓子)の企業の顧問も引き受け、違反かどうかで争いになる。定義が曖昧な条項は、裁判になっても企業の期待どおりに解釈されるとは限らない。

防止策:

  • 「競合他社」を具体的に列挙するか、「同一製品カテゴリ・同一顧客層を対象とする企業」などと定義する
  • 兼業を認める場合は「事前書面承認制」として企業がコントロールできるようにする
  • 競業禁止の期間・地域・業種範囲を合理的かつ具体的に定める
  • 競業禁止への代償措置(報酬上乗せ)を設けることで条項の有効性と抑止力を高める

トラブルの型3:秘密情報の漏洩

想定例:スタートアップ企業が投資家との人脈を持つ経営顧問と契約。顧問は資金調達のピッチを支援する中で、企業の未公開財務情報・顧客データを資料に含めて配布し、受け取った先の一部が競合企業と関係していた。秘密保持契約違反や、不正競争防止法の営業秘密侵害が問題になり得る。

防止策:

  • 第三者への情報開示には企業の事前書面承認を必須とする
  • 秘密情報を含む資料には「社外秘・配布禁止・転送禁止」を明記し、受け取り先リストを管理する
  • 投資家・パートナー候補への開示は「秘密保持契約(NDA)締結後のみ」と定める
  • 秘密保持違反の違約金条項(損害賠償とは別に一定額を定める)を設けることで抑止力を高める
  • 秘密情報の提供時は「機密情報管理台帳」を作成し、提供日・提供先・内容を記録する

トラブル防止チェックリスト10項目

顧問契約書を最終確認する際に、以下の10項目をすべてチェックしてください。企業側・顧問側の両者が、契約締結前にこのリストを用いて確認することを推奨します。一つでも欠けていると将来的なトラブルの原因になります。

チェック項目 確認ポイント 優先度
業務範囲の具体的定義 業務内容・頻度・方法・場所が数値で明記されているか。「業務範囲に含まれないこと」も記載されているか 最重要
報酬の明確な記載 金額・税込み税別・支払い方法・タイミング・源泉徴収の扱いが明記されているか 最重要
秘密情報の定義 秘密情報の範囲と例外事項が具体的に定義されているか。契約終了後の有効期間は定められているか 最重要
知的財産権の帰属 業務中に生じた著作物・発明の帰属と対価が明記されているか。著作者人格権の不行使も定めているか 重要
競業禁止の合理性 期間・地域・禁止する業務の範囲が目的に照らして合理的で具体的か。代償措置(報酬上乗せ)が定められているか 重要
損害賠償の上限設定 責任制限条項が設けられ、上限額が明記されているか。特定違反(秘密漏洩など)の別規定はあるか 重要
解約手続きの明確化 通常解除・即時解除の条件と事前通知期間が定められているか。解約時の精算方法も明記されているか 重要
偽装請負リスクの回避 指揮命令関係・時間拘束がなく、独立性が確保されているか。複数企業との並行契約が可能な設計か。個人の顧問なら、フリーランス法の明示事項(業務内容・報酬額・支払期日など)を書面等で示しているか 重要
紛争解決の合意管轄 裁判所の管轄(所在地の地方裁判所など)と準拠法(日本法)が定められているか 通常
契約変更の手続き 契約内容の変更・追加は書面による両者の合意が必要と明記されているか 通常
弁護士レビューのおすすめ:報酬額が大きい顧問契約や、機密性の高い技術・経営情報を扱う顧問契約については、契約書締結前に弁護士によるレビューを受けることをおすすめします。レビュー費用は依頼先ごとに見積もりで決まるため、事前に確認してください。紛争になってからの対応より、締結前の確認のほうが時間と費用を抑えやすくなります。また、雛形契約書をそのまま使うのではなく、個別の取引内容に合わせてカスタマイズすることが重要です。

個人事業主(フリーランス顧問)の税務上の注意点

顧問として個人事業主(フリーランス)で活動する場合、以下の税務上の手続きと注意事項を正確に理解しておく必要があります。税務の誤りは追徴課税・加算税・延滞税の原因となるため、開業時から税理士に相談することを推奨します。

開業届と青色申告

顧問業務を開始したら、所轄税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。国税庁の案内(2026年10月24日確認)では、提出時期は事業を始めた年分の確定申告期限までです。あわせて「所得税の青色申告承認申請書」を提出すると、青色申告特別控除を使えます。

  • 開業届:事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで(国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」)
  • 青色申告承認申請書:その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内=所得税法144条)
  • 青色申告特別控除は原則55万円。e-Taxで申告するか、優良な電子帳簿の要件を満たして保存すると65万円。要件を満たさない場合は10万円(国税庁タックスアンサーNo.2072)
  • 55万円・65万円の控除は、複式簿記での記帳と、期限内の申告が条件(会計ソフト活用推奨)

源泉徴収の扱い

企業が個人の弁護士・税理士や、経営コンサルタント(所得税法施行令320条2項の「企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)」)などに報酬を支払う場合、金額にかかわらず源泉徴収(10.21%、同じ人への1回の支払が100万円を超える部分は20.42%)が必要です(所得税法204条1項2号)。年間の所得税は確定申告で精算されます。顧問の業務内容によって対象かどうかが変わるため、迷う場合は税理士か税務署に確認してください。

具体例(仮に月額30万円とした試算):月額30万円の顧問料の場合、企業が源泉徴収する金額は30万円 × 10.21% = 30,630円。顧問が受け取るのは269,370円。年間では源泉徴収額367,560円。確定申告で所得控除・必要経費を差し引いた実際の税額との差額が還付または追加納付となります。
  • 契約書に「報酬額は源泉徴収前の金額」か「源泉徴収後の手取り額」かを明記する
  • インボイス制度(2023年10月〜):取引先が仕入税額控除を受けるには、適格請求書(インボイス)が必要。発行できるのは適格請求書発行事業者として登録した事業者だけ
  • 企業側から「インボイス未登録のため消費税相当分を差し引く」と要求される場合は、交渉または登録を検討する。なお、従業員を使う会社が個人の顧問に1か月以上委託している場合、顧問に責任がないのに報酬を減らすことはフリーランス法5条で禁止されています

必要経費の計上

顧問業務に関連する費用は必要経費として所得から控除できます。経費の計上漏れは税負担を不必要に増やすため、領収書の保管と帳簿への記録を徹底してください。

  • 交通費:顧問先への移動費(電車・タクシー。自動車の場合は業務比率で按分)
  • 書籍・研修費:業務に関連する専門書・セミナー参加費・オンライン講座費用
  • 通信費:業務で使用する携帯電話・インターネット料金(自宅兼事務所の場合は家事按分)
  • 事務用品費:業務で使用する文具・PCアクセサリー・ソフトウェアサブスクリプション
  • 接待交際費:業務関連の会食費(要領収書・相手先・目的の記録)
  • 賠償責任保険料:顧問業務に関連する個人賠償責任保険・PL保険料
  • 弁護士・税理士費用:顧問契約書作成・税務申告・法的相談の専門家費用
  • 自宅事務所費:自宅を事務所として使用する場合、家賃・光熱費の業務使用割合分

消費税とインボイス制度

2026年10月時点の注意点:インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、登録していない免税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下の顧問など)に支払った顧問料は、企業側で原則として仕入税額控除ができません。ただし経過措置があり、令和8年度税制改正で次のように見直されました(国税庁「令和8年度税制改正特集」、2026年10月24日確認)。
  • 免税事業者等からの仕入れで控除できる割合:2026年10月から2年間は70%、2028年10月から2年間は50%、2030年10月から1年間は30%、2031年10月以降は0%(改正前は2026年10月から3年間50%の予定でした)
  • 「2割特例」(登録で課税事業者になった事業者が納付税額を売上税額の2割にできる特例)は、2026年9月30日が属する課税期間まで
  • 「3割特例」:登録で免税事業者から課税事業者になった個人事業者は、2027年分・2028年分の申告で納付税額を売上税額の3割にできる
このため企業から「インボイス登録または報酬の見直し」を求められることがあります。インボイス登録の是非は、課税事業者になることによる消費税負担と、取引先との関係のバランスを考え、税理士に相談して判断することをおすすめします。

社会保険への対応

個人事業主として顧問活動を行う場合、企業の社会保険(健康保険・厚生年金)には加入できません。以下の制度への加入を検討してください。

  • 国民健康保険:市区町村への届出が必要。前年の所得を基に保険料が算定される
  • 国民年金:第1号被保険者として月額保険料を納付(令和8年度=2026年4月〜2027年3月は月額17,920円・日本年金機構)
  • 国民年金基金・iDeCo:老後資産形成の手段。掛金は全額所得控除の対象(国民年金基金は社会保険料控除、iDeCoは小規模企業共済等掛金控除)
  • 小規模企業共済:廃業時などに退職金代わりに受け取れる。掛金は全額所得控除の対象(小規模企業共済等掛金控除)

まとめ — 顧問契約は「中身・お金・情報・終わり方」を書面で決める

  • 助言・指導が中心の顧問契約は準委任契約(民法656条)。善管注意義務・報告義務・いつでも解除できるルールは委任と共通
  • 契約書には業務範囲・報酬・契約期間・秘密保持・競業禁止・知的財産・損害賠償・解約の8条項を入れる
  • 個人の顧問に頼む会社は、フリーランス法の取引条件の明示(3条)・60日以内の支払期日(4条)・30日前の解除予告(16条)を守る
  • 指揮命令・時間の拘束が強いと雇用と判断されるおそれ。賃金請求の時効は当分の間3年、社会保険料は2年さかのぼる
  • 顧問側は、源泉徴収(10.21%)・開業届・青色申告・インボイスの経過措置(2026年10月から70%)を確認する

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本記事の監修

齊木祐介(ASI株式会社 代表取締役)— 顧問制度・経営支援を含む複数事業を統括し、実務で得た知見をもとに本サイトの情報を監修しています(運営:ASI株式会社)。