顧問の責任範囲2025年最新版【法的責任・リスク・契約ポイント】

顧問の基本的な責任範囲

顧問は業務委託契約に基づく独立した立場であり、従業員とは異なる責任範囲を持ちます。ここでは基本的な責任の枠組みを解説します。

顧問と従業員の責任の違い

項目 一般顧問(業務委託) 従業員(雇用契約) 社外取締役
法的位置づけ 独立した業務委託先 会社の従属的立場 会社法上の役員
指揮命令権 なし あり なし(監督・決議権あり)
善管注意義務 契約書で定める 労働契約で当然に負う 会社法で明記(高度な注意義務)
秘密保持義務 契約書で定める(必須) 就業規則で定める 会社法で明記
競業避止義務 契約書で定める場合あり 就業規則で定める 会社法で制限あり
損害賠償責任 故意・重過失で負う 故意・重過失で負う 経営判断の誤りで負う可能性
刑事責任 個人として負う可能性 個人として負う可能性 役員として負う可能性(高い)

💡 重要ポイント

一般的な顧問は助言・指導が主な役割であり、経営の意思決定権や業務執行権は持ちません。そのため、従業員や社外取締役と比べて法的責任は限定的です。ただし、契約内容によっては重い責任を負う場合もあるため、契約書の確認が必須です。

民事責任【損害賠償のリスク】

顧問が企業や第三者に損害を与えた場合、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

民事責任が発生する主なケース

ケース① 善管注意義務違反

善良な管理者としての注意義務を怠った場合、損害賠償責任が発生します。

実例:技術顧問が明らかに実現不可能な技術開発計画を提案し、企業が多額の投資をして失敗。顧問の専門家としての注意義務違反が認められ、損害賠償責任が発生。
損害賠償額の目安:企業の損失額の一部〜全額(数百万円〜数千万円)

ケース② 秘密保持義務違反

企業の秘密情報を第三者に漏洩した場合、重大な損害賠償責任が発生します。

実例:経営顧問が企業の新製品情報を競合他社に漏洩。企業の競争優位性が失われ、売上が激減。不正競争防止法違反として損害賠償訴訟に発展。
損害賠償額の目安:数千万円〜数億円(漏洩による損害額に応じる)

ケース③ 競業避止義務違反

契約で競業避止義務が定められているのに、競合他社の顧問を兼任した場合。

実例:顧問契約で競業避止義務が明記されているにも関わらず、同業他社の顧問を引き受け、利益相反が発生。契約違反として損害賠償と違約金を請求された。
損害賠償額の目安:契約違反金として報酬の数ヶ月分〜1年分

ケース④ 誤った助言による損害

専門家として明らかに誤った助言をし、企業が重大な損害を被った場合。

実例:法務顧問が法令解釈を誤り、企業が違法な契約を締結。後に訴訟で敗訴し、多額の賠償金を支払うことに。顧問の過失が認められた。
損害賠償額の目安:企業の損失額の一部(顧問の過失割合に応じる)

民事責任を軽減する方法

  • 契約書で責任制限条項を設ける:「報酬額の○ヶ月分を上限とする」など
  • 賠償責任保険に加入する:個人で専門家賠償責任保険に加入
  • 助言の前提条件を明記する:「提供情報が正確であることを前提とする」など
  • 書面で記録を残す:助言内容をメールや議事録で残し、誤解を防ぐ

刑事責任【罰金・懲役のリスク】

顧問の行為が刑法や特別法に違反した場合、刑事責任を問われる可能性があります。

刑事責任が発生する主なケース

違反行為 該当法令 刑罰 実例
営業秘密の漏洩 不正競争防止法 10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金 技術顧問が企業の製造ノウハウを競合に売却
インサイダー取引 金融商品取引法 5年以下の懲役または500万円以下の罰金 社外取締役が未公表情報を基に株式を売買
横領・背任 刑法 10年以下の懲役(横領)、5年以下の懲役(背任) 財務顧問が企業資金を私的に流用
贈収賄 刑法 5年以下の懲役 顧問が取引先から賄賂を受け取る
粉飾決算への関与 金融商品取引法 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金 会計顧問が粉飾決算に加担

⚠️ 社外取締役の刑事リスク

社外取締役は、会社の不祥事に対して役員として刑事責任を問われるリスクが高いです。監督義務を怠った場合、「業務上過失」として刑事訴追される可能性があります。一般的な顧問よりもリスクが高いため、D&O保険への加入が必須です。

契約書での責任制限【5つの重要条項】

顧問契約書に適切な条項を盛り込むことで、過度な責任を回避できます。

条項① 責任制限条項

損害賠償責任の上限額を定めます。

条項例

「本契約に関連して顧問が負う損害賠償責任の上限は、本契約に基づき支払われた報酬総額の6ヶ月分とする。ただし、故意または重大な過失による場合はこの限りではない。」

条項② 免責条項

顧問が責任を負わない範囲を明確にします。

条項例

「顧問は、企業が提供した情報が不正確であったこと、または企業が顧問の助言に従わなかったことに起因する損害について、一切の責任を負わない。」

条項③ 助言の性質の明記

顧問の助言はあくまで参考意見であることを明記します。

条項例

「顧問の助言は、企業の意思決定を支援するための参考意見であり、企業は自らの判断と責任において最終決定を行うものとする。顧問は意思決定の結果に対して責任を負わない。」

条項④ 秘密保持義務の明確化

秘密情報の範囲と保持期間を明確にします。

条項例

「顧問は、本契約期間中および契約終了後3年間、企業から開示された秘密情報を第三者に開示せず、本契約の目的以外に使用しないものとする。ただし、公知の情報、法令に基づき開示が義務付けられた情報は除く。」

条項⑤ 紛争解決条項

トラブル時の解決方法を定めます。

条項例

「本契約に関する紛争は、まず当事者間の誠実な協議により解決を図るものとする。協議により解決しない場合は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

💡 契約書作成のコツ

顧問にとって不利な条件(無制限の損害賠償責任など)が含まれていないか、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。特に、高額な報酬を受け取る場合は、責任範囲も広くなりがちなので注意が必要です。

D&O保険と賠償責任保険【リスクヘッジ】

顧問のリスクをカバーする保険について解説します。

D&O保険(役員賠償責任保険)

対象者

取締役、監査役、社外取締役、執行役員など、会社法上の役員

補償内容

  • 株主代表訴訟の損害賠償金・訴訟費用
  • 第三者からの損害賠償請求
  • 調査費用(証券取引等監視委員会の調査など)

保険料

年間50万円〜500万円(企業規模・補償額による)

顧問の扱い

一般的な顧問は対象外。社外取締役として契約した場合のみ対象。

専門家賠償責任保険

対象者

弁護士、税理士、公認会計士、コンサルタント、技術士など専門家

補償内容

  • 専門業務の過誤による損害賠償金
  • 訴訟費用・弁護士費用
  • 示談交渉費用

保険料

年間5万円〜50万円(職種・補償額による)

顧問の扱い

職種によっては加入可能。コンサルタント顧問は「コンサルタント賠償責任保険」に加入できる。

顧問が加入すべき保険

顧問タイプ 推奨保険 理由
社外取締役 D&O保険(企業負担) 株主代表訴訟のリスクが高い
経営顧問 コンサルタント賠償責任保険 助言の誤りによる損害賠償リスク
技術顧問 専門家賠償責任保険 技術的な過誤による損害リスク
法律・財務顧問 職業賠償責任保険 資格に応じた専門保険が必須

💡 保険加入のポイント

  • 社外取締役として契約する場合、企業にD&O保険の加入を確認する
  • 一般顧問の場合、自分の職種に合った賠償責任保険を個人で加入
  • 保険料は経費として計上可能(個人事業主の場合)
  • 補償額は年間報酬の10〜20倍を目安に設定

トラブル事例と対処法【実例から学ぶ】

実際に発生したトラブル事例から、予防策と対処法を学びましょう。

事例① 秘密情報の漏洩トラブル

状況

経営顧問が、会議で知った新規事業計画を親しい知人(競合企業の経営者)に話してしまった。競合がそのアイデアを先に実行し、企業は市場機会を失った。

結果

企業は顧問を秘密保持義務違反で訴訟。裁判所は顧問の過失を認め、3,000万円の損害賠償を命じた。

予防策

  • 秘密保持契約(NDA)を必ず締結する
  • 「秘密情報」の範囲を明確に定義する
  • 会議資料に「社外秘」「機密」のマークを付ける
  • 定期的に秘密保持の重要性を顧問に伝える

事例② 利益相反トラブル

状況

営業顧問が、自分が経営する会社の製品を顧問先企業に高額で販売。企業は後に市場相場の2倍の価格で購入していたことに気付いた。

結果

企業は顧問を詐欺的行為として訴訟。顧問は利益相反を開示しなかったことが契約違反と認定され、1,500万円の返金と契約解除となった。

予防策

  • 顧問に利益相反の可能性を事前に開示させる
  • 顧問関連会社との取引は第三者の評価を入れる
  • 契約書に利益相反の禁止条項を明記する

事例③ 誤った助言トラブル

状況

法務顧問が海外進出時の法令を誤って解釈し、企業が違法状態で事業を開始。現地当局から営業停止命令を受け、多額の罰金が科された。

結果

企業は顧問の過失を主張したが、顧問は「助言は参考意見であり、企業が最終判断した」と反論。裁判所は双方に過失があるとして、損害の50%(2,000万円)を顧問が負担することを命じた。

予防策

  • 重要な判断は必ず複数の専門家に確認する
  • 助言を受けた際は、その根拠を文書で残す
  • 契約書に「助言は参考意見である」旨を明記する
  • 顧問に賠償責任保険への加入を求める

まとめ:顧問のリスク管理法

顧問として安全に活動するためのリスク管理法をまとめます。

顧問のリスク管理チェックリスト

  • 契約書に責任制限条項を必ず入れる
  • 秘密保持契約(NDA)を締結する
  • 競業避止義務の範囲を明確にする
  • 助言内容を書面(メール・議事録)で記録する
  • 賠償責任保険に加入する
  • 利益相反の可能性を事前に開示する
  • 誤った助言をしないよう、最新情報を常に学習する
  • トラブル時の相談先(弁護士)を確保しておく

重要ポイント

  • 一般顧問は助言が主で、法的責任は限定的(契約による)
  • 社外取締役は会社法上の責任があり、D&O保険が必須
  • 秘密保持義務違反は数千万円〜数億円の損害賠償リスク
  • 刑事責任は営業秘密漏洩で最大10年の懲役
  • 契約書で責任制限条項を設けることが重要
  • 賠償責任保険で万が一のリスクをヘッジできる

よくある質問(FAQ)

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よくある質問(FAQ)

A1. はい、顧問には秘密保持義務があります。

契約書で明確にし、秘密保持契約(NDA)を別途締結するのが一般的です。

A2. 契約書の解約条項に従い、即座に契約解除できます。

損害が発生した場合は損害賠償請求も可能です。

A3. 契約書の解約条項に従います。

一般的に1〜3ヶ月前の予告で解約可能ですが、双方合意があればいつでも解約できます。